安倍元首相の国葬が迫ってきた。しかし、安倍氏の死後、明るみに出された旧統一教会と自民党の関係に国民は嫌気を示し、世論調査では、今や国葬反対派が賛成派を大きく上回る事態となっている。これが国葬の実施形態に微妙な影をなげかけている。
国民感情を人一倍気にする岸田首相の迷走ぶりは際立っている。当初は国葬の費用については2億5千万円を支出すると首相が発表。そこに警備費などが含まれていないことを指摘されると「それは従来予算から出費するので除外しており、国葬後に明らかにする」などと説明していた。ところが警備費などが30億円近くにのぼるとマスコミが報道。国葬予算を少なく見せるための詭弁だ、などと報道されると一転、6日に総額を発表すると方針転換をした。あとで多額の出費が問題になるなら先に数字を出そうというのがその理由だ。
政府は批判の対象になる出費を極力抑えようと躍起だ。世界150か国の首脳が参列すると予想されるため警備体制は8000人と発表し、各地方道府県警からの動員を行う予定だったのだが、関東近県からの体制に変更。地方からの動員は極力抑えるとしたようだ。いつもの通り全国の警察に割り当てるとすると旅費、ホテル代など地方からの出張費がかさんでしまうからである。面食らったのは地方の警察。すでに体制を作っていたものを見直さざるをえなくなった。
しかも国葬では安倍氏への弔意の表明は見送られることに。とはいえ、国葬と弔意の表明はもともとワンセット。戦後唯一の先例である吉田茂元総理の国葬ではもちろんのこと総理経験者の葬儀についても国が関わる場合は弔意を表明してきた。見送られるのは「弔意の強制」という批判を受けないためである。
もともと安心、安全な国、日本では考えられなかった銃犯罪で指導者を喪うという悲劇、万全の体制で厳粛に臨むと意気込んでいたにもかかわらずいつのまにか、なにやらいびつな国葬になってしまった。
政府は国民の反発に怖気づき迷走しているのだから仕方ないが、こうなると余計に警備の主人公たる警視庁ならびに応援警察部隊の双肩に国葬の成否がかかることになる。なにしろ警備上の失態から安倍氏が凶弾に倒れることを許してしまった警察としては、その葬儀の場で失敗することは許されない。
人心一新をはかるとして中村格警察庁長官に変えて、露木康浩氏を警察庁長官に起用、露木氏はその第一声で「国葬警備に万全を期す」と檄を発した。
だが国葬反対派はデモなども予定して、国葬当日東京を騒然とした街にすることを狙っている。世界からやってきた首脳たちに、国葬に反対するものが多く存在することを示し、岸田内閣の権威を失墜させるためだ。もちろんかつての過激派のような非合法勢力が存在するわけではないが、万が一ということもあり、警備上の失策は許されない。
警察はその一環として、反社会分子を次々と逮捕している。例えば道仁会四代目会長小林哲治容疑者ら幹部3人が逮捕された件だ。ホテルに偽名で泊まったのがその容疑だが、犯行は去年の6月のこと。別件捜査中の警察官がたまたま発見したというがそれは怪しい。小林容疑者らの行動確認を行う中で違法行為を確認したものである。それを今逮捕するのは、国葬前であるからだ。
この逮捕は全国の反社会分子に拡散された。そしてそれぞれの幹部たちは警察の思惑通り、国葬までは活動を自粛する申し合わせなども行われている。
「岸田内閣は今回の国葬に全力で取り組むとしていますが、その内実はボロボロです。市民の反発を煽ることになる過剰警備などがあってはならないとしていますが、同時に海外要人に安心・安全という日本の印象を作らなければならないという矛盾を抱えています。武道館を中心に立入禁止規制などを行いながら、市民に対してはできるだけソフトに対応するようです」(警視庁記者)
首相の思いをくみ取るとはかくも難しいものなのだ。
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