佐賀県南部から福岡県筑後地区は、九州でも有数の肥沃な大地。佐賀平野を中心に大規模経営の農家がコメを中心に、野菜やイチゴなどを生産している。耕地面積は佐賀県だけでも37,800ha。有明海の埋立地にも農業地域が広がり、九州の穀倉をなすといってよい。そこに記録的大雨が襲った。各地で冠水被害があいつぎ孤立地区が生まれ、死者は現在まで3人にのぼった。
降雨量は佐賀市で26日の降り始めから29日午後4時までで461.5ミリ。地域の雨量が年間1500ミリから2000ミリ程度だから、年間降雨量の4分の1程度がたった4日間で降ったことになる。
今回の被害の特徴は、海抜ゼロメートル地帯の低地で排水不良が発生し、雨水が下水道などからあふれる「内水氾濫」である。満潮と大雨が重なったための事態だが、これほどの雨に襲われるとはだれも予測していなかった。
とくに被害が大きい佐賀県武雄市や大町町は、もともと浸水リスクが高いといわれていたところ。8万リットルの油の流出を招いた佐賀鉄工所は過去、浸水被害を受けたことがあり、タンク位置をかさ上げするなど対策をしていたが、それが役に立たないような大雨にみまわれた。
「過去にも浸水被害の経験があるが、今回はまるで違った。急に水位があがってきて、気が付いたときはもう動けなくなった。消防団が助けに来るまで生きた心地がしなかった」(被災者)
内水氾濫はいたるところで起きていた。そのうえ河川の氾濫もあった。水がどちらから来ているのか分からなかったという。
「排水ポンプが作動しなかったのだろう。水は無数の下水溝から一気に吹き上がったようだ」(同)
油が流出した大町町では、油が有明海や河川に流れ出れば、漁業被害につながるためまずは油をシートで除去するという作業が優先する。オイルフェンスを浸水地区に設置、油を含まない水を排水しはじめたが、油が土地に吸着することも防がなければならず、排水がいつ完了するのかの見通しも立たない。
また長崎自動車道の武雄北方インターチェンジと嬉野インターチェンジの間の下り線は、大雨による路面の隆起で復旧のめどが立っていない。JRも一部で線路冠水、築堤崩壊などがあったが、30日には徐行運転をはじめた。ただ今後も大雨が予想されるため、いつ寸断されるかわからない。
農業被害も深刻、壊滅的打撃を受けている稲作農家はもちろん、あまおうや佐賀ほのか生産農家ではハウスが崩壊ところも多数、シーズン後のため苗木は守ったが、どうしていいか先が見えないという。また野菜生産農家や花卉生産農家も壊滅的な打撃を蒙っている。
今回の被害も西日本豪雨と同じく、積乱雲が次々と発達して帯状に連なる「線状降水帯」が発生したことが原因。九州北部から本州にのびる前線に中国大陸や南方海上から湿った空気が流れ込んだためだ。今後も条件さえそろえば同様な被害は生じる可能性がある。
線状降水帯の発生を予測することは現在の気象技術では難しいという。じっさい今回も九州北部の降水量の予想は200ミリだった。それが倍以上の降水量になったのだから気象専門家たちはお手上げだ。地球温暖化が急速に進行する中で、「かってない状態」が常態化することが予測される。早急に国土強靭化をなしとげることが国土を守る道である。
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