ハマスとの戦争は第二段階に入った――イスラエルのネタニヤフ首相は傲然とそう言い放った。ガザ地区に戦車、陸上戦力を侵攻させての言葉だ。しかも大規模な空爆は連日続いており、ガザは廃墟と化している。今、ガザの空は空爆の黒い煙で全域が覆われている。その下はまさに地獄絵。我々の想像を絶している。この非人道的な戦いはいつまで続くのか。パレスチナをよく知る写真家・菅梓氏に話を聞いた。
中東の地中海東部に位置するパレスチナ。その地で営みを得ていた70万人のパレスチナ人は、第二次世界大戦後の1948年5月、国連主導によるユダヤ人のイスラエル建国とともに故郷を追われた。しかも、そこには宗教対立を盾にした、各国の政治の思惑が絡んだ。今、パレスチナ人はヨルダン川西岸とガザ地区に押し込まれ、国家の建設もままならないまま、イスラエルの占領下に置かれている。
今回の事態の発端は、ガザ地区に拠点を置く反イスラエルの武装集団ハマスが、イスラエル領土に侵攻し、民間人を虐殺。そしてイスラエル人約250人を人質としてガザ地区に連れ去ったことにあるとされている。しかし、その根はもっと深い。そもそも、ハマスによるイスラエルへの攻撃、その報復としてイスラエルからガザ地区への攻撃は日常的なことだった。
両者の争いがエスカレートするきっかけは、最近の中東政治地図の変容にある。
アラブの大義である、「パレスチナ問題の解決なくしてはイスラエルを認めない」との主張を、イスラム国家、サウジアラビア、バーレーン、UAEなどが投げ捨て、イスラエルを認めることに踏み切ったからだ。これによってアラブの足並みが乱れ、反発したハマスなどのパレスチナ地区の反イスラエル軍事組織がいら立ちを深め、エスカレートした攻撃に打って出たのである。
イスラエルは、今回のハマスとの戦闘を「自衛」のための攻撃だと言う。だが、その自衛の実態は大量の無差別殺人だ。
ガザは、日本の福岡市程度の土地に200万人が暮らす、世界でも屈指の人口密集地帯。そこに容赦ない空爆。陸上は塀に囲まれ、海岸には鉄条網が張られ、沖には警備艇が駐留。「天井のない監獄」で死を待つ人々。現在、ガザの死者は8000人に迫ると言われ、インフラ機能もほとんどが停止。命をつなぐ病院も機能不全に陥っている。生活の基本である食料はもちろん、水の供給すらも滞っている。それにもかかわらず、国際的な反戦ムードにはなっていない。日本政府も国連総会決議にイギリス、ドイツなどとともに棄権した。
解決の道はあるのか。「パレスチナを愛する旅人」、写真家の菅氏はこう話す。
「パレスチナの人々は、自分たちの置かれた厳しい環境の中でも、民族の誇りを持ち、世界中の友人を受け入れてくれます。今、恐るべき環境のもとでも、彼らは笑顔を忘れずに明日に向かって生きています。そして国土を奪われたパレスチナの人々に、世界の人がもっと目を向けて欲しいと願っています」
菅氏がパレスチナを知ったのは、ヨルダンに行ったときに「エルサレムを見たい」という気持ちから現地を訪れたことがきっかけだった。もともと世界の料理に興味を持っていた菅氏は、パレスチナ各地域を巡り、家庭料理を通じてパレスチナの人々と文化を知った。料理は文化の架け橋になることを実感、抑圧された民であるパレスチナの人々の優しさ、逞しさに魅了され、パレスチナを何度も訪れることになった。その菅氏が見たイスラエルとパレスチナとは。
「イスラエルは、領地を拡大するためにパレスチナの人々への弾圧を行い、国連に認められていない地域に入植地をたくさん作り、そして今も作っています。他方で、反イスラエルを唱えるハマスやファタハなどの集団も、パレスチナの人々にとって支配者として振る舞うことがあります。パレスチナのある有名音楽家は、自分の作った曲を自分のものと言えません。抵抗の歌と認定されれば、イスラエルに逮捕されてしまうからです。ハマスやファタハなどの抵抗組織の中では、汚職が蔓延し、彼らもまたパレスチナの人々を逮捕することがあります。明日をも見えない絶望の中にいる人々のことを発信することは、彼らを孤独から救います。また、これは私自身のためでもあります。パレスチナでは、人権が蔑ろにされています。私は、パレスチナでその瞬間を何度も目撃しました。他人の人権が侵害されているのを見過ごすことは、自身の人権を蔑ろにしていることと同じです。見た者には、見たことを伝える責任が発生すると思います。私は、パレスチナで何が起こっているのか伝えるために、日本人としての自分にできることを精一杯果たして行きたいと思います」
パレスチナ問題は、解決されなければならない。戦争に代表されるこれまでの負の歴史を克服する根源的な力を、人類が持っているかが試されている。
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